金曜も平日ですから、夜の休憩前までの動きは変わりません。ただ、夜11時以降は戦法を大きく変えます。平日のスタンスは短距離で数を稼ぐことを基本戦略としていましたが、長距離が出やすい金曜の夜だけは大物狙いになります。当然、主戦場も新宿、渋谷でなく、高級飲食店が多い赤坂、銀座、新橋です。

景気が悪いといっても裕福な人は必ずいます。そんな彼らは金曜に高級飲食店に集まります。もちろんそれを見越してタクシーの数も増えますが、お客さんの数も多いので全く問題ありません。中長距離を稼ぐには絶好の漁場で、それこそ万収(タクシー用語で1万円以上の営収)が続出したりします。ときには2万円のお客さんが登場するのも金曜の夜ならではのことです。

夜11時になると、僕はまず赤坂の街を流します。タイミングよく信号待ちの先頭で止まれるよう運転テクニックを駆使します。なぜなら、うまく先頭で止まることができれば、かなりの確率でお客さんが乗ってくるからです。赤坂では大手ゼネコン勤務のエリート会社員をよく乗せました。

それと、赤坂の街では基本的に、赤坂通りをTBSから山王下に向けて車を走らせます。それにより東に向かうお客さんを拾えるからです。彼らには、霞が関から高速に入って湾岸方面に抜けるパターンが少なくありません。その場合、レインボーブリッジや横羽線を通ったり、東名に入ったりするルートとなります。湾岸周辺は高層マンションが連なる近未来的な雰囲気で、気分が高まり、それこそレインボーブリッジを通過するときは頭の中でクラブミュージックが鳴り響き、爽快感マックスです。東名に入れば入ったで、3車線で運転しやすいですし、当然長距離を望めるので気分は最高となります。 一方、赤坂通りを逆に走ると、どうしても西に向かうお客さんとなり、外苑インターから首都高に乗り、中央高速に向かうのが一般的です。中央高速は道が暗いうえに、山のほうに向かうので景色も単調で気分が乗りません。タクシー業務の成績は意外とその日の気分に左右されるものですので、東に向かうお客さんを拾えるようルートを選んでいました。